インド映画『RRR』。誇り高き軍馬マルワリ登場シーンの考察

2022年に日本で大ヒットした映画『RRR』をご存じだろうか。

この映画には「マルワリ」というインドの馬が登場し、映画を見た人の間で非常に話題になった。わたしはそれまでインド映画に興味がなく、以前取材したことのある馬の博物館学芸員の方からこの映画について教えていただいた。

 

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「マルワリは憧れの馬! これは見に行くしかない!」 ということで、さっそく映画館に足を運んだ。これがもうめちゃくちゃ面白くて、その年の個人的映画ベストワンは(まだ残り2カ月もあったのに)これに決まり!だと思ったくらいである。マルワリの活躍はもちろんのこと、それを差し引いても本当にすばらしい映画だった。

当時もnoteに感想を投稿し、うれしいことにSmartNewsにも取り上げていただいたのだが、今回は改めて(落ち着いて)劇中に出てきた、マルワリ登場シーンの考察をしたい。

耳が不思議な形の、あの馬はなんだ?

イラスト:やりゆきこ

本作品『RRR』でマルワリが最初に登場するのは、主人公ふたりラーマとビームがはじめて出会うシーンである。ラーマが乗っている馬。耳がくるんと内側に湾曲している馬がおそらくマルワリである。この耳の湾曲が非常に珍しいため、映画鑑賞後にググる日本人が続出した。

マルワリはインドの在来馬で、さきほど「おそらく」と書いたのには理由がある。インドの在来馬で耳が湾曲している馬はマルワリだけではないからだ。マルワリの次に有名なものでいうとカチアワリという品種がいる。インドに在住する日本人に聞いたところ、そのほかにも3種類ほど耳が湾曲した馬がいるという話もある。

それぞれの違いについてはここでは割愛するが、ここではマルワリと仮定して話を進めたい。ちなみに2つの品種の共通点の湾曲した耳は『インド耳』と呼ばれている。

マルワリはインドのラジャスタン州原産の馬で、かつては軍馬として重宝されていた。インドでは数々の伝説が語られ、その勇敢さと神聖さから『インドの誇り』と称されている。

『RRR』の舞台はイギリス植民地時代のインド

わたしが映画『RRR』に興味を持ったのは、マルワリが登場するというほかに、物語の舞台がイギリス植民地時代のインドだったいうことがある。というのも、マルワリは当時のイギリス人にあまり好まれず、インドの繁殖技術が低いからこういった耳の馬が生まれるのだとインド耳は嘲笑の対象となっていたと読んだことがあったからだ。

当時のイギリスはマルワリの生産を減らし、他のポロポニーやサラブレッドを生産するようにしていった。そのことが、マルワリの衰退のきっかけともいわれている。

ちなみに、近代ポロの発祥もインドである。イギリスのスポーツのように思われがちなポロでだが、イギリス植民地時代にインドにやってきたイギリス兵がポロを発見し、本国に持ち帰ったという経緯がある。そんなこともあって、前述のようにポロポニーを多く生産する方向に動いたのかもしれない。

ラーマとビームの出会いのシーンはどう撮影された?

劇中、最初に登場した『馬』はビームの故郷の森の中で、イギリス兵(総督)が乗っていた馬である。これはマルワリではなくサラブレッド寄りの馬であった。

次に目立つ形で馬が登場するのが主人公ふたりの出会いのシーン。

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上に貼った動画では残念ながらカットされてしまっているが、ラーマが乗っている馬は橋の上で荷馬車を曳いていたマルワリである。

かつては誇り高き軍馬、インドでは神のように崇められたマルワリ。しかし、映画の舞台となったこの時代には、車などの台頭によってその役割を失いはじめ、マルワリも荷馬車などを曳くようになったという。時代背景が反映されたシーンといえそうだ。

出会いのシーンは、改めて時間を見てみるとかなり短いのだが、その後の展開も相まって非常に印象的に仕上がっている。優美に着飾ったお祭り仕様のマルワリも素晴らしいが、かつて勇敢な軍馬だったことを彷彿とさせるマルワリのイメージにピッタリのシーンだった。

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また、メイキングを見たところ、マルワリが後肢で立ち上がるところや直線を走るところはブルーバックで実写、ラーマを橋の外に放り出すところはVFXが使われていた。

マルワリは軍馬として活躍した際に、後肢で立ち上がる姿勢が求められたらしい。真偽のほどは定かではないが、マルワリは数分間その後肢で立っていられるといわれている。実際にそういった写真や動画がよく出回っているので、得意ではあることは確かなようだ。

ちなみに、映画公開からかなり経った現在もGoogleで「RRR」と検索すると、バイクと馬の絵文字が走る演出は残っているのでぜひ試してみてほしい。

マルワリを取り戻すことは、インドの誇りを取り戻すこと

出会いのシーン以外にも、親友として過ごすラーマとビームの青春感満載の描写の中には、たびたびラーマが馬に乗り、ビームがバイクに乗って並走する楽しげな様子が登場する。その際にラーマが乗っている馬はほぼマルワリだったと記憶している。

また、ラーマが騎乗している馬だけでなく、劇中のさまざまなシーンにマルワリたちが映り込んでいるのでよく見ていただきたい。

劇中、最も胸が熱くなったのはラスト近くで、マルワリに乗っていたイギリス兵が落馬し、神話となったラーマがそのマルワリに乗り替わるシーンである。(この映画の中において)支配的で、インドやマルワリに敬意を持たないイギリス兵が『インドの誇り』に跨るんじゃねぇ!お前が跨っていい馬じゃねぇ!と言っているかのようなこの場面。これはきっと、ラーマたちがインドの誇りを取り戻すシーンだったと信じている。

この映画は、主人公ふたりの友情の物語であり、インドを取り戻す物語でもある。イギリス植民地時代という舞台の中で、かつて『インドの誇り』と称されてきたマルワリが、象徴的に登場することにはきっと意味があるはずだ。

終わりに

『RRR』は久々に映画館で観た作品だった。日々の忙しさを理由に「ネット配信されるまで待とう」と、いつの間にか映画館から遠ざかっていた。

もちろん配信版も入手しているが、見るたびに感じるのは映画公開時と配信版では編集内容が異なるのではないかという点だ。映画館で上映されたものはもう確認できないので、あくまで私の記憶が確かならば…の話だが、「ラーマたちがインドの誇りを取り戻すシーン」が配信版では簡略化されているように思えてならない。

この作品は、映画館でしか味わえない体験の価値を思い出させてくれた1本ともなった。