
「日本で唯一、黄金の馬アハルテケを飼養している牧場が八戸にある」。そう知ったのはもう何年も前だった。今年の9月半ば、やっと青森県八戸市のアハルテケ長谷川牧場を訪ねることができた。今回は、自分自身の目で見た「アハルテケ」という馬について書き残したい。
- 雨の厩舎で見た、愛らしい素顔
- 砂漠の軍馬の神秘的な顔立ち
- 輝きの秘密、短く光沢のある美しい毛
- 優美な細身のからだと砂漠の軍馬の逞しさ
- 野生味があり、勇敢な性格のアハルテケ
- 世界に数千頭の馬に日本で会える
雨の厩舎で見た、愛らしい素顔
初日は雨。厩舎で見たアハルテケ*1たちは、落ち着いた姿を見せていたが、初めて訪れた人間に興味津々な様子で馬房から顔を出してくれた。
それはなんとも愛らしい様子で、神々しい黄金の馬というイメージからは良い意味でかけ離れていた。だが翌朝、放牧地へ向かう一頭を朝日の中で見ると印象が一変した。
体表面には独特の光沢が見られ、日光を反射して明るく輝いて見える!そこで初めて、私は「黄金の馬」を実感することとなった。

砂漠の軍馬の神秘的な顔立ち
アハルテケを近くで見てまず印象的だったのは、顔の形である。一般的な馬と比較するとやや細長く、額から鼻梁にかけてすっと一直線に通ったラインを描いている。その額はわずかに張り出しており、筋肉が発達しているように見えた。

耳は大ぶりでまっすぐに立ち、よく動く。瞳はあまり大きくないが、アーモンドのような形が特徴的である。
たてがみは思った以上に薄く、風になびくというよりも、さらりと流れる印象。気温の高い砂漠地域の馬なので、あまり毛は多くないほうがいいのかもしれない。たてがみの控えめさが顔立ちの印象を際立たせている。

輝きの秘密、短く光沢のある美しい毛
この馬の最大の特徴といえば、やはり被毛だ。実際に撫でさせてもらうと非常に短く細い。しかし密度が高い。指先からすぐに皮膚の温もりが伝わり、さらさらとしているが少し手に吸い付くような感触が心地よい。
厩務員の方によると、季節が進んで冬になっても、他の品種のような大きな毛の生え変わりはなく*2、短い被毛のままだそうだ。

アハルテケにはさまざまな毛色があるが、「黄金」といわれるのは佐目毛やバックスキンが多いようだ。かつて砂漠地域で軍馬として重宝されていたアハルテケのそのような毛色は、一説に砂漠での保護色的な役割も果たしていたのではないかと云われている。

初日、厩舎の中ではわからなかったが、翌朝5時からの放牧に同行した際、その被毛の魅力を存分に味わうことができた。朝日を浴びてアハルテケが体を動かすたび、筋肉の曲線に沿って光が流れてキラキラと輝く。写真では伝えきれないのがもどかしい。

優美な細身のからだと砂漠の軍馬の逞しさ
アハルテケはサラブレッドと同じ軽種である。つまり、馬の品種のなかではかなり細身の部類と言ってよい。だがその細身のからだは決して弱さを意味しない。

筋肉はしっかりと張り、走り出せば非常にしなやかな姿を見せる。なんというか、人間でいうところのマラソン選手のような体つきだ。
実際に、アハルテケはスタミナ抜群で、かつては4000km以上の距離を84日で走破した記録もあるらしい。長谷川牧場では運動不足にならないよう、一頭あたりの放牧地もかなりの広さを確保している。

ツーショット写真を撮ってもらう際、リードを持たせてもらったが、その力強さに圧倒された。アハルテケの一挙手一投足、すべてにパワーを感じた。私の力量(技術)では、引き馬を一瞬で諦めざるを得なかった。

図鑑では体高が140〜170cmと幅があるのも、実際に見て納得できた。牝馬は小柄で、牡馬は大柄。性別による差が他の品種以上に際立っている。上の写真は身長162cmの私と並んだアハルテケの牡馬である。なかなかに大きい。
さらに印象的だったのは、硬く丈夫でコンパクトな蹄と、成馬らしからぬ体の柔軟さだ。そこまで激しい運動をさせるわけではないので、現状は蹄鉄も履かせていないそうだ。
オーナーによると、蹄鉄をつけるための削蹄と蹄鉄をつけずにいるための削蹄は、削り方も異なるという。だから削蹄にはとても気をつかっているし、放牧も雨の後は水が乾いてから放すなどケアを徹底している。しかし湿度の高い日本で、蹄の良い状態をキープするのはとても難しいそうで、牧場の皆さんの努力に頭が下がる。

また体の柔らかさは、虫を追い払うときの足の可動域や、馬栓棒をくぐろうとする姿勢からも感じられた。実際にサラブレッドがくぐれない場所をアハルテケがくぐってしまったこともあったそうだ。アハルテケは大人になっても、仔馬のような身体の柔軟性を持ち続けているように思える。
今回アハルテケに乗ることは叶わなかったが、オーナーによると乗った際の反動がほとんどないという。そのためライダーの疲労が少なく、長距離移動でも快適に乗り続けられる。
野生味があり、勇敢な性格のアハルテケ
牧場の皆さんは「アハルテケはとても頭がいい」と語る。無駄なことはしないし、理解すれば素直に動く。ただし、納得しないまま強制すれば頑として動かない。何十分も動かない。
オーナーは「頑固すぎて困ることも」と笑うが、その笑顔からは、この頑固さもアハルテケの個性であり魅力なのだと伝わってきた。
もうひとつ。たった2日ではあるが、私がアハルテケを観察して感じたのは、新しいものを見ても動じない落ち着きと、視界に入った未知のものに向かって突進していくような勇敢さだ。

(もちろん私は牧柵の外である)
敷地内でホーストレッキングをさせてもらったとき、アハルテケの放牧地の横をサラブレッドに乗って通ると、牧柵越しに私たちを追いかけ、挑むような仕草を見せた。野性味と勇敢さを感じさせる印象的な一幕だった。
もちろん個体差はあり臆病なアハルテケもいたが、それでも未知のものを見たときにパニックになるというよりはじっと対象物を見つめる…という感じだった。
世界に数千頭の馬に日本で会える

アハルテケは世界でも数千頭しか存在せず、原産国のトルクメニスタンでは国の象徴として保護されている。輸出にも制限があるため、かつての私は生きているうちに本物を見ることはないだろうと思っていた。
それが今、東北の地で健やかに暮らす姿を間近で見ることができる。気候に合わせた工夫と、日々の丁寧な管理。その積み重ねがあってこそ、この希少な馬が日本で生きている。
雨の日に見た愛らしい姿と、翌朝に朝日を浴びて輝いている姿。その両方を体験したことで、アハルテケという馬の奥行きと魅力を深く実感できた。日本にいながらアハルテケと過ごした時間この二日間は、忘れがたい体験となった。