静かに変わる「ウマ科の進化」の常識。大絶滅展で日本デビューしたシフルヒップスとエオヒップスの関係とは?

我々、一般ウマ好き界隈にとって「最古の馬」といえばエオヒップスである。そして、「ウマ科の進化」の展示や解説図といえば、このエオヒップスから始まるのが定番だった。

しかし、現在、国立科学博物館で開催中の「大絶滅展」ではシフルヒップスを起点として進化の説明がなされている。前回の記事で紹介したように、シフルヒップスは可愛らしくデフォルメされ、ぬいぐるみにも採用されるという華々しい(?)日本デビューをはたした。その点は非常によろこばしい。しかし一方で、慣れ親しんだ彼ら......「エオヒップスよ、どこへ行った?」という気持ちが沸き上がらないでもない。

頑張って調べてみたところ、ウマ科の進化は私が学んできたよりもずっと複雑なようだった。そして静かに、いつの間にか「ウマ科の進化における常識」が書き換わりつつあるようだ。

「シフルヒップス」とは何者か

シフルヒップスは、一般にはまだあまり知られていないが、「これまでで知られる最古のウマ」「現在における最古級のウマ」とされている小型のウマ科である。約5,500万年前の始新世初期に北アメリカに生息していた。

小型犬ほどのサイズしかなく、前肢に4本、後肢に3本の指があり、まだ現代の馬のような一本指の蹄には進化していなかった。森林地帯で暮らし、柔らかい葉や果実を食べていたと考えられている。その小さな体は、当時の温暖な気候に適応した結果だった。

 

スウェーデン国立自然史博物館のシフルヒップス復元模型
Eduard Solà, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

大絶滅展でウマ科の進化についての展示があるのは、ビッグファイブの後の世界——大量絶滅がなかった新生代にはどのようなことが起こったのか。生き物の多様な環境がどうやって形づくられてきたかを、化石で辿るセクションである。

展示では、新生代のトピックとして「急激な気候変動」が挙げられている。おそらく、その影響を受けた代表的な存在として、シフルヒップスに白羽の矢が立ったと考えられる。

シフルヒップスとエオヒップスの関係

「エオヒップス」は、単一の種ではなかった?

19世紀、初期のウマ科の化石が次々と発見された。

その初期のウマ類を1841年にイギリスの古生物学者リチャード・オーウェンが「ヒラコテリウム(Hyracotherium)」と命名し、1876年にはアメリカの古生物学者オスニエル・チャールズ・マーシュが「エオヒップス(Eohippus)」と命名した。

(左)リチャード・オーウェン/(右)オスニエル・チャールズ・マーシュ

 

長い間、これらは「ほぼ同じもの」として扱われ、学名のルール上、先に命名されたヒラコテリウムが正式名称(学名)とされた。

しかし実際には、「ヒラコテリウム」や「エオヒップス」という名前で呼ばれていた化石は、単一の種ではなく、複数の初期のウマ科が同じ名前で扱われていたと現在は考えられているらしい。

2002年に発表された、初期ウマ類の分類の見直し

転機となったのが、2002年に発表されたFroehlich(フローリッヒ)の研究だった。Froehlichは40種類の化石を121の特徴で詳細に比較分析し、初期ウマ類の分類を根本から見直している。

その結果、これまで「ヒラコテリウム」と、ひとまとめにされていた化石群の中から、シフルヒップス(Sifrhippus)という新しい属が提案された。そして系統樹では、シフルヒップスはウマ類の「いちばん最初の分岐点」に並ぶグループとして配置されたのである。

一方で、「エオヒップス」という名前の扱いも整理され、特定の1種(Eohippus angustidens)だけを指す名称とした。また、それ以外の化石群はシフルヒップスを含む別属へと振り分けられた。

エオヒップス(Eohippus angustidens)はシフルヒップスよりわずかに新しい時代に生き、体サイズも少し大きかったようだ。前肢に4本・後肢に3本の指という特徴は共通しているものの、系統的にはシフルヒップスの方がより原始的な位置にあると理解されている。

(余談)大絶滅展でもエオヒップスが採用されているエリアもあるよ!

……というわけで、現行の分類体系では、シフルヒップスとエオヒップスは別の属で、エオヒップスよりもシフルヒップスの方が古いということになっている。詳細な系統樹はこちら(英語)

日本では一般知名度の低いシフルヒップス

これほど重要な再分類にもかかわらず、シフルヒップスの名前は、日本ではほとんど知られていない。その理由ひとつは、おそらく分類の再整理が行われてから、日本語の一般書や図鑑に反映されるまでタイムラグが生じていること。専門家の間では認知されていても、一般的には少々マニアックな話題なので、少し時間がかかるのかもしれない。

もうひとつは、「エオヒップス=最古の馬」というイメージがあまりに強く、教科書的に定着してしまったこと。また、北米の古生物学の議論が、一般向けに日本語で紹介される機会が限られていることも大きいのだろう。

だからこそ、大絶滅展でシフルヒップスが私たちの前に姿を見せたことには、静かながら大きな意味があると感じている。

 

【参考文献・記事】

Froehlich, D. J. (2002). Quo vadis Eohippus? The systematics and taxonomy 
of the early Eocene equids (Perissodactyla). Zoological Journal of 
the Linnean Society, 134(2), 141–256.

Davis, Caroline. (2005). 図説 馬と人の歴史全書. 東洋書林. ISBN 978-4-88721-574-0.  

国立科学博物館(2025)「大絶滅展」展示解説。

www.floridamuseum.ufl.edu