
2022年から某自然史系博物館でボランティアをしている。分野ごとにグループが分かれていて、私は哺乳類分野のボランティアスタッフだ。
そこでは哺乳類の骨や内臓について学ぶ機会が多いのだが、恥ずかしいことに家での復習がまったく持って追いつかない。骨も内臓も筋肉もなかなか覚えられずにいる。
そんなわけで、まずは子どもレベルでもいいから、まずは大好きな馬を題材に、改めて学んでみることに。
仕事部屋のインテリアの一部と化していた「4D VISION HORSE 解剖学モデル」を分解し、臓器や骨をひとつずつ見ていくことにした。
- 4D VISION HORSE 解剖学モデルとは?
- パズルの土台を観察してみる
- ウマの腸
- ウマの腎臓
- ウマの肺と横隔膜
- ウマの胃と脾臓
- ウマの肋骨
- ウマの肩甲骨・上腕骨・橈骨・尺骨(前肢)
- ウマの大腿骨・腓骨・脛骨(後肢)
- ウマの骨盤
- ウマの仙椎
- 透明パーツ、蹄と耳を付けたら完成
- これくらいから始めるのがちょうどいい
4D VISION HORSE 解剖学モデルとは?
「4D VISION HORSE 解剖学モデル」は、ウマの身体構造をパズル感覚で学びながら組み立てることができる、立体的な解剖学模型だ。
香港のFame Master社が展開する「4D Master」シリーズのひとつで、日本では青島文化教材社(アオシマ)などが輸入販売を行っている。現在、Amazonで見ると価格が高騰しているので、私はメルカリで購入した。
主な特徴
- ハーフスケルトン仕様: 体の半分が透明なケースになっており、組み立てた後でも内臓や骨格がどのように配置されているかを外から観察できる。
- 着脱可能なパーツ: 骨格、肺、胃、腸などの主要な臓器が25個のパーツに分割されており、パズルのように取り外しが可能。
- ディスプレイ: 完成後は全長約18.5cm〜20cm程度のサイズになり、付属の専用スタンドに飾ることができる。
また、このモデルは単なるおもちゃではなく、子どもが馬の臓器が腹腔内でどのように収まっているか、立体的な位置関係を直感的に理解できる知育玩具として販売されている。ちなみに対象年齢は8歳から。
※本記事は専門家が書いたものではなく、一介の馬好きが解剖パズルのパーツの粗さと格闘しながら「推しの内臓と骨」を学んだ体験記です。内容に間違い等お気づきの有識者の方がいらっしゃいましたら、ぜひ優しくご指摘いただけますと幸いです。
パズルの土台を観察してみる

まずはパズルの土台となる右半身を見ていきたい。いくつかの骨や臓器は、すでにこのパーツに組み込まれている。JRAの公式サイトに掲載されている「馬の骨格名称」と照らし合わせてみる。
頭の方から順に頭蓋骨、頚椎、胸椎……続く仙椎が抜けていて、尾椎のはじまりあたりまで。
足の方はだいぶざっくり表現されており、より一層「なんとなく」の判断になってしまうけれど、前肢は上のほうから手根関節の一部(腕節の一部)、第3中手骨(管骨)、中手指節関節(球節)、近位種子骨、近位指節間関節(冠関節)あたりまで含まれていそうだ。
後肢は足根関節(飛節)、距骨、第3中足骨、第4中足骨、近位種子骨、第1趾骨あたりまでが埋め込まれているように見える。
オレンジ色の管は食道、水色の管は気管。紫色の大きな臓器は右肺で、その真ん中にあるのが心臓だ。
動物の心臓は基本的に体の大きさに比例するといわれている。
ただ、ウマは品種による差もあって、サラブレッドは体格のわりに心臓が大きい(いわゆる「スポーツ心臓」)。
そのため、単純にサラブレッドとドラフト種の心臓の重さだけで比べると、後者のほうが心臓が大きく見えるが、体に対する比率で見ると一概には言えないのが面白いところだ。
さて!ここからパズルのピースとなる骨や臓器をひとつずつ見ていきたい。
ウマの腸

ウマの臓器で特徴的なものといえば、やっぱり腸をイメージする。小腸は約22m、大腸は盲腸と結腸で約10mに達し、体内の大部分を占める。だから本当はびろーんと長い臓器なわけだけれど、パズル上はそれが一塊に、エビフライのように表現されている。
ウマの巨大な盲腸や大腸には無数の微生物が住んでいる。微生物は草を分解・発酵させ、その過程でエネルギー源となる物質(揮発性脂肪酸など)を生み出し、馬はそれを吸収している。
ウマの腎臓

日ごろ、私が読んでいるような一般向けの馬の本ではあまり触れられることがない腎臓も、この模型では独立したピースになっていた。
腎臓の間を通る赤い直線は、おそらく大動脈だと思われる。
公益財団法人 軽種馬育成調教センターの発行している資料によると、ウマの右腎はハート型(この写真だと上側)、左腎はソラマメ型(この写真だと下側)とされている。実際の大きさは、サラブレッドの場合で10~15cmほどのようだ。
また、資料では左のソラマメ型のほうがやや小さめと書かれていたが、この模型ではそこまでは再現されていないようである。
ウマの肺と横隔膜

最初に見たパズルの土台に「右肺」があったので、こちらは「左肺」にあたるはずだ。
ヒトと同様、肺は空気中の酸素を血液に取り込み、血液中の二酸化炭素を体外へ排出する臓器だ。サラブレッドの肺活量は40数リットル、ヒトの10倍以上になる。
以前、ウマの肺の実物を見る機会に恵まれた。馬体のサイズに対して、思っていた以上に肺は大きかった印象がある。

こちらは横隔膜。馬は駈歩の際、「一完歩につき一呼吸」するとされている。
走行中は体幹が大きく伸びたり縮んだりするのに加え、慣性によって横隔膜の後方にある内臓が前後に動く。この動きが横隔膜の運動と連動することで、ストライドと呼吸が同期するらしい。
馬は、こうして効率よく肺に酸素を取り込み、速さと持久力を両立させている。
ウマの胃と脾臓

こちらは肌色の部分が胃、コゲ茶色の部分が脾臓を表現している。ウマの胃の容量は9~13リットルほどといわれており、ウシの150~200リットルと比べるとかなり小さい。
つまりウマは、一度に大量に食べることができない。
そのため(半)野生馬などは、少量の草を少しずつ、1日中食べているというわけだ。
また胃の入り口にあたる噴門が固く閉じられていること、食道が胃に対して非常に鋭角に流入していることなどが要因となり、ウマは嘔吐することもできない。
10年以上、毎週のように馬を見ているが、確かに一度飲み込んだものを吐き出しているウマは見たことがない。
また、脾臓には大量の赤血球が蓄えられている。馬が全力で走る際、交感神経が興奮すると脾臓が収縮し、蓄えていた赤血球を一気に血液中に送り出す。
人間でもマラソン中に左脇腹が痛くなることがある。一説にはこれは脾臓が収縮して血液を送り出す際の痛みだといわれるのだが、ウマの脾臓のパワーは人間の比ではない。人間が『痛い』と感じる程度の収縮で送る血液がわずかなのに対し、ウマは全赤血球の約3分の1という膨大な量を一気にブーストさせる。
\組み立ての途中経過①/

ちなみに…ここまでに登場した臓器をざっくり土台にはめ込んでみると、こうなる。見えないけれど、横隔膜と腸の間には胃と脾臓も入っている。
やはり日本製ではないからなのか、各パーツのつくりも粗く(笑)、ちょっと無理やり押し込んだ感じになってしまった…。なお、横隔膜と一体化している明るい茶色の部分は、おそらく肝臓の表面部を表現していると推測する。
この模型における、内臓のパーツはこれで全部だ。続いては骨のパーツを見ていこう。
ウマの肋骨

ウマの肋骨は18対(計36本)あり、ヒト(12対)よりも多い。この模型も数えてみたら18本になっていた。
胴の側面を形づくり、内臓を守る役割を持っている肋骨。健康なウマでも最初の数本はうっすら、皮膚の表面から見えることがあるが、肋骨がすべて見える場合は痩せすぎである。
ウマの肩甲骨・上腕骨・橈骨・尺骨(前肢)

こちらは前肢の骨がいくつかまとまってパーツになっているようだ。これもまた、かなりざっくりだけれど、上から順に、肩甲骨、上腕骨、橈骨と尺骨が確認できる。
ヒトでは肩甲骨は鎖骨を介して胸骨と連結しているが、馬には鎖骨がない。そのため肩甲骨は骨同士で固定されているわけではなく、肋骨の上の筋肉にくっついている。ウマだけに限ったことではないが、筋肉の上に骨がのっかっているだけ(?)なんて、なんだか不思議だ。
ウマの大腿骨・腓骨・脛骨(後肢)

こちらは後肢の大腿骨、腓骨、脛骨だと思われる。大腿骨はウマの骨格の中で最も大きな骨で、大腿骨頭は骨盤と股関節に接している。この模型では分かりづらいが、大腿骨は前下方に傾斜し、下は膝関節にもつながっている。
ちなみに、ウマの後肢は、見た目の印象と実際の構造に少しズレがある。
立っていると「膝が逆向きに曲がっている」ように見えるが、外からはっきり確認できる関節は膝ではなく、ヒトの足首にあたる飛節である。
膝関節そのものはそれよりも上、大腿の付け根に近い位置にあり、筋肉に覆われているため外見からは分かりにくい。
ウマの骨盤

前述の通り、骨盤は大腿骨と接している。骨盤は腸骨・座骨・恥骨の3つの骨が癒合して構成されているが、この模型のパーツからそれは伝わらない。
ウマの仙椎

土台では省略されていた仙椎。実は独立したパーツになっていた。実際のウマの場合、仙椎は骨盤と強固に結合しているが、この模型では分離された状態で表現されている。
\組み立ての途中経過②/

以上で、この模型における骨のパーツも全部紹介したことになる。
先ほど内臓をざっくりはめ込んだ土台に、骨パーツを追加してみると、上図のようになる。
透明パーツ、蹄と耳を付けたら完成

最後に左半身の透明な蓋のようなパーツをはめ込み、耳と蹄を取り付ければ模型は完成である。ただし、各パーツのつくりがアバウトなため、それぞれをしっかりはめ込まないと最後の透明カバーがうまく閉まらない。
耳のパーツはすごく簡単にはずれてしまうし、そのうち失くしてしまいそうだから接着剤でとめてしまってもいいかもしれない。
これくらいから始めるのがちょうどいい

私のように勉強が苦手なタイプは、最初から難しい解剖学の本などを読む前に、こういった比較的簡単なもの、そして手にとって触れるものから勉強するとよさそうである。大人でも組み立て作業を通して楽しく学ぶことができた。
本を読んでいてもなかなか覚えられないが、自分で触って、特徴を調べた骨や臓器についてはだいぶ覚えられた気がする。次は平易な解剖学の本を読むことにトライしていきたい。
参考文献
・ILLUSTRATED GUIDE BOOK 4D VISION HORSE ANATOMY MODEL
・Horsepedia ビジュアル図解 馬のすべて/著者:田中一善 他(ラトルズ)
・サラブレッド講座 競走馬・馬体の仕組み(JRA公式サイト)
・「知」のビジュアル百科 馬の百科/著者:ジュリエット・クラットン=ブロック(あすなろ書房)
・ウマの博物図鑑/著者:デビー・バズビー 他(原書房)
・BTCニュース-「馬に見られる病気」シリーズ
・BTCニュース-「からだの仕組みを知る」シリーズ
